安藤 勇(イエズス会社会司牧センター)
通常国会が閉会する6月前にも、国会で「出入国管理・難民認定法」(入管法)の改定が実現する見通しとなり、議論を呼んでいる。
主要な改定点の一つは、法務省が外国人の在留管理に必要な情報を一元管理することだ。国会に上程された改定案は、市民団体や野党議員、日本弁護士連合会 などから厳しい批判を浴びている。だが、有権者にとっては外国人の問題はさほど重要ではないので、選挙を控えた議員たちが、この問題を本気で取り上げるか どうか、疑問だ。
日本政府に無視され続ける外国人 |
日本人と外国人の間に、交流と対話の架け橋をかけて、民族同士の和解を実現するためには、政府の役割と共に、家庭や学校での教育の役割も、非常に重要 だ。もちろん、宗教もすぐれた仲介者の役割を果たす可能性を、常に秘めている。2007年度の統計で、在日外国人の数は200万人を超えており、この問題 は日本の重要な国家的課題の一つと言える。
不可避な人の移動 |
問題の多い新入管法 バブル経済真っ最中の1989年、入管法が改定された。当時、日本の政策は大混乱のただなかにあったが、入管法改定は国会で十分に審議されなかった。こ の改定によって日系人の入国が促進されたため、ペルーやブラジルからの流入が進み、その数は2007年までに40万人にのぼった。
それから20年経った現在、経済状況は変わっているが、危機的な政治状況は変わっていない。政府が国会に提出した入管法改定案は、通常国会休会前、6月初旬の成立を目指している。
改定の主な目的は、法務省による外国人の全面的な管理であり、外国人在留規則を強化することである。現在の外国人登録証は、ICチップの付いた「在留 カード」に取り替えられる。外国人はカードの常時携帯を求められ、持っていないと最高で罰金20万円を課せられる。また、居住地や雇い主、在留資格の変更 を速やかに届け出ない場合も、刑事罰を受ける。新しい入管法では、新しい住所を法務省に届け出なかっただけで、外国人の在留資格が失われてしまう事態も懸 念される。
法務省の一元管理 |
高まる批判 |
この問題に関心のある方は、日本弁護士連合会の意見書(2009年2月19日)をご参照いただきたい。
資 料 | 新たな在留管理制度の構築及び外国人台帳制度の整備に対する意見書(概要) |
日本弁護士連合会
2009年2月19日
2009年2月19日
1 | 新たな在留管理制度の構築に対する意見 | ||
(1) | 新たな在留管理制度については、管理を強化する必要性を裏付ける事実の有無や必要最小限の管理であるかなどの視点から、その採否自体を含め、慎重かつ厳格な検討をあらためて行うべきである | ||
(2) | また、その具体的内容については、次のような問題点がある。 | ||
ア | 外国人からの在留状況の届出については、在留資格の更新等の判断に具体的な必要性のない事項についてまで対象とすべきではない。 | ||
イ | 全ての中長期滞在の外国人(特別永住者を除く。)にICチップの組み込まれた在留カード(仮称)を交付し、罰則をもって携帯を義務付けることに反対する。 | ||
ウ | 特別永住者に現行の外国人登録証明書と同様の証明書を交付するとしても、その常時携帯を義務付けるものであってはならない。 | ||
エ | 外国人の留・就学先等の教育機関に対し、所属する外国人の情報を法務大臣に提供することを義務付けることに反対する。 | ||
オ | 行政機関による情報の相互照会・提供においては、個別具体的な必要性及び客観的な合理性を要件として、個別の照会・提供の方法によるべきであるが、まずもって、独立した監督機関の設置を先行すべきである。 | ||
カ | 法務大臣による新たな情報利用の仕組として、新たに在留資格の取消事由の対象を拡大する制度を設けるべきではない | ||
2 | 外国人台帳制度の整備に対する意見 | ||
(1) | 市区町村に外国人台帳を整備すること自体には賛成であるが、市区町村による住民行政の実現の観点から、すべての外国人住民の基本的人権を等しく保障するものとなるようあらためて構想されるべきである。 | ||
(2) | また、その具体的内容については、次のとおりとすべきである。 | ||
ア | 難民の可能性がある一時庇護上陸許可者・仮滞在許可者や、適法な在留資格を有しない外国人について も、その必要に応じ、市区町村が外国人台帳制度の対象とすることを許容するものとすべきである。他方、国や自治体は、外国人台帳に掲載されていない外国人 であるからといって、そのことを理由に行政サービスの給付を拒否すべきではない。 | ||
イ | 外国人台帳制度における情報は、あくまで外国人住民に対する行政サービスの目的のために利用されるべきであり、外国人の在留管理等の目的のために利用すべきではない。 | ||
●意見書全文はhttp://www.nichibenren.or.j |