アジア・パシフィックイエズス会大学連盟(AJCU-AP)による大学生のための
サービスラーニングプログラム(Service Learning Program)
~インドネシアで開催されたサービスラーニングプログラムに参加して~
オーガスティン・サリ(上智大学神学部教授)
プログラムの概略
サービスラーニングプログラム(SLP)は、アジア・パシフィックイエズス会大学連盟(AJCU-AP 、Association of Jesuit College and Universities-Asia Pacific)が実施している多くのプログラムの一つで、毎日の生活において、イグナチオの教育方法(Ignatian Pedagogy)を適用する努力をしているイエズス会の大学の学生たちに、場を提供することに焦点を当てたものです。それは、イエズス会教育の教育法で、首尾一貫した高等教育の教え方の一つのアプローチです。学術的な研究と、コミュニティサービスにおける実践的な経験とを結びつけようとする試みです。サービスラーニングプログラムは2008年8月に始まり、今年で5回目になりました。連盟の会員大学は、毎年、学生と教員を3週間のプログラムに送り出し、そのうちの一校がホスト役を務めます。 2008年、SLPはサビエル大学アテネオ・デ・カガヤンがホスト役となりました。その時のテーマは「社会正義のための教育(Education for Social Justice )」でした。2009年のSLPはインドネシアのSanata Dharma 大学がホスト役となり、テーマは「建設的対話のための教育(Education For Constructive Dialogue)」でした。2010年は上智大学がホスト役の番でした。しかし実施されたのはカンボジアで、そのテーマは「文化を保護することはアイデンティティを保護するための一つの方法(Preserving Culture ? A Way For Preserving Identity)」というものでした。SLPの2011年は、フィリピンのAteneo de Davao大学がホスト役で、その時のテーマは、「環境のケアのための教育は創造との和解への一つのモデル(Education for Environmental Stewardship:A Model towards Reconciliation with Creation)」でした。今年2012年は、再びSanata Dharma 大学がホスト役となり、2013年は、フィリピンの Ateneo de Naga大学がホスト役となり、開催が予定されています。
2012年インドネシアのSLP
今年のSLPは、8月5日~26日、インドネシアで開かれ、テーマは、「一つの地球、多くの宗教:創造の健全性への建設的な対話と連帯(One Earth Many religions:Constructing dialogue and solidarity towards the integrity of Creation)」でした。4つのイエズス会の大学から38人の学生が参加しました。日本(8人)、韓国(4人)、フィリピン(10人)、インドネシア(16人)の学生が今年は参加し、それに加えて12人の教員が同行しました。インドネシアからは世話人として、4人の教員と15人のアシスタントがいました。上智大学から今年、3人の教員(Dr. Fukutake Shintaro、Fr. Suzuki Nobukuni SJ、Sali Augustine SJ)が加わりました。東アジアにおける多宗教の社会であるインドネシアで開催されたので、今年のテーマはたいへん意義深いもので、特別に適切なものでした。
対話の経験と振返り
このプログラムは、様々な宗教の共同体において、経験的に学ぶことを基にした、社会的・環境的問題を理解することに焦点がおかれています。イグナチ的教育法が青写真としてあって、プログラム全体の構成は、現状-経験-振返り-行動-評価、というサイクルに従っています。
第一段階では、日常生活において、人々が宗教的価値観に従って生きている、ジョグジャカルタ周辺地域に代表されるインドネシアの現状に、参加者は出会いました。イスラム教、キリスト教、仏教、ヒンズー教、そして土着の宗教といった、様々な宗教の中で生きているこれらの共同体は、農業のルーツからも来ており、自然や環境への関心は、彼らの生活の主要因になっています。すべての参加者は、いかに宗教間対話が環境問題にこたえるにあたって、力強い手段になるのかを、考えるために、様々な共同体でいくつかの活動をしました。
第二段階では、参加者はMerapi山の斜面地域周辺で生活しました。この地域には、2010年の火山爆発後、いまだに復旧しつつある、複数の宗教からなる共同体があります。参加者は、宗教の違いに関わりなく、Merapi山斜面を住みよい場に戻すために、植樹に参加しました。参加者はそのとき、Somohitan地域で宗教の違う状況の中で、生活経験をしました。このプログラムを通して学生たちは、経験的で彼ら自身のイニシアティブによる、学習の違った方法に触れました。特に学んだ経験は、次のようです。
-
ジョグジャカルタの多様な人々と個人的なインタビューを通して、インドネシアの社会的・文化的、ならびに宗教的多様性とその人々を知ること。
-
インドネシアの宗教(イスラム教、仏教、ヒンズー教、キリスト教)を知り、交流すること。
-
Vihara Medut 寺院の仏教の僧侶との交流を通して、また僧侶と食事をして仏教のもてなしの経験をして、ヒンズー教の聖職者や仏教の僧侶、イスラム教の指導者と対話・交流すること。僧侶の話や議論は印象深いものでした。もう一つの経験は、Pura Jagatnathanoのヒンズー教の聖職者と交流したことで、ヒンズー教徒も加わりました。
-
様々な宗教(イスラム教、ヒンズー教、仏教、キリスト教)の儀式と祝いに参加し、ジョグジャカルタでラマダン(断食)に従う人々のことを体験し、さらに、あるモスクで「ラマダン明けの最初の儀式」に参加しているイスラム教徒と交流したこと。
-
Kotagede、Tamasariの人々との交流を通しての学生たちの経験について、学生たちのグループ間で振返りと分かち合いをしたこと。
-
家族と生活をともにし、異宗教間の交流をしたこと。
講義のあとに、文化と宗教について直接的な経験をしました。インドネシアについて、つまり、その文化、伝統、宗教、そして問題点についての講義でした。Heru神父は、多宗教の社会における宗教対話の困難さと展望について、批評的な分析をしました。この講義と直接的な経験をすることによって、学生たちは各グループで深い振返りにつながる、違いについての深い経験をしました。イスラム教、ヒンズー教、仏教、神道、キリスト教、そして無宗教の人たちが参加者した経験は、彼らの宗教的信念を分かち合う、すばらしい経験でした。(そのグループにはイスラム教徒5名、ヒンズー教徒1名、神道信者1名かそれ以上、仏教徒2名かそれ以上、カトリック信者15名以上、そして他のプロテスタント信者がいました。一方で日本と韓国から来た何人かの参加者は、自分はいかなる宗教にも属さないと主張しました)。その結果、彼ら自身が違いを経験し分かち合ったように、ひとつの地球多くの宗教について学ぶことは、学生にとって良い機会でした。この経験から平和と連帯とすぐに結び付けることは難しいですが、違った宗教を知り、経験することは、すべての人にとって、良いことでした。Vihara medut 寺院の僧侶が、蓮Lotusや涅槃(ねはん)Nirvana等の意味について、仏陀の中道middle pathについて話したように、これらの体験から、人々は他の宗教について知るようになります。