book 本書は、現在、霞が関の省庁に勤務しているという現役キャリア官僚が執筆した小説です。小説という形をとりながら、原発再稼働を推進しようとする、電力会社、官庁、政治家の真意を、あからさまに抉り出そうとした内部告発的な野心作です。そこには原子力ムラと呼ばれる既得権益を守ろうとする人たちの正体が赤裸々に語られています。本書を読むことで、企業人と官僚さらに政治家が、お互いの利益によって引き合いながら、癒着した構造を作り出している、そのありさまがはっきりと見えてきます。
 しかし一方でこの小説は、その内部告発的な要素を色濃く持ちながらも、同時に、エンターテイメントとしての魅力を十分にあわせもった作品であるといえます。作品の中では、上にあげた原子力ムラの住民以外に、原発再稼働を阻止しようとして、自ら危ない橋を渡ろうとする元女子アナウンサーと、彼女と共謀して官庁内の秘密を告発する官僚とのロマンスも描かれています。作品の中の人物一人ひとりが、それぞれの異なる立場において、何を考え、何を感じているかが、具体的な描写を通して生き生きと表現されており、その人間模様は、読む者を飽きさせません。作者自身がキャリア官僚ということもあり、その記述には上から目線のきらいがあると言えなくもないですが、国の上部にいる人々の価値観やものの見方あるいは彼らの風俗の一端を知るという意味では、私には大変興味深く、それがまたこの作品の魅力ともなっているのではないかと感じました。
 物語後半の道行きは、破滅的な方向へ一気に進みますが、それは同時に、作者自身の現状への危機感のあらわれと受け取れます。原発再稼働が、現政権下で、公然と推進されようとしている現今において、その中核にいる人々に焦点を当てて、物語を構成し、彼らの具体的なありさまを、公に可視化してみせたことは、大変時宜を得た、大いなる批判精神と評価されていいと思います。多くの人にとって、本書を手に取ることは、真実を知ることの助けになるはずです。
(山本啓輔、イエズス会社会司牧センター)