阿部 慶太(フランシスコ会)

  政治的理由や宗教的な理由でキリスト教の宣教が難しい地域があります。パキスタンもその一つです。その、パキスタン・カラチでハンデキャップ(以下「ハンデ」)のある子供たちの施設で奉仕している一人に日本人のブラザー松本貢四郎(以下「ブラザー松本」)がいます。

  パキスタンは福祉、特にハンデキャップを持った子供たちへの政策が十分とはいえません。カラチにあるフランシスカン・センター(以下「センター」)は市内にある数少ないハンデキャップ・センターの一つです。また、入所者のほとんどがイスラム教徒です。
  そのセンターで奉仕するブラザー松本に近況を聞きました。それによると「今年4人の児童が15歳になったので退所します。センターの規定で15歳になる と退所しなければならないのですが、ハンデのない同年代の青少年でもなかなか職業に就けないパキスタンの現状を思うと、知的障害を持った児童たちがこのセ ンターを退所していっても職につける可能性はありません。また以前の入所前のように家の中で閉じこもった生活が待っているだけで、気がかりです」といいま した。
  センターではハンデのある子供たちが家庭の中にあっても、衣服の脱着など自分ですべきことは自分でできるように、さらに、家事の手伝い、周りの人々との コミュニケーションが無理なくできるように指導をしています。それでも規定の前に生活の保障がない中へ送りださなければならないやるせなさあるそうです。
  日本の福祉制度のような施設作りは、まだ遠いことのように感じますが、ブラザー松本にとって、センターの活動を軌道に乗せるまでにも多くの苦労がありました。

  宗教的な環境では、彼の住むパキスタンは、国民の98%がイスラム教徒で原理主義者も多く、アフガニスタンも近いため、シーア派、スンニ派などイスラム同士の小競り合いもある地域です。
  教会関係の施設の破壊も何の脈絡もなく起こります。その中で彼が宣教師として赴任してから17年が過ぎました。
  彼がパキスタンに来た当時、カラチ市内のいたるところでハンデのある子供たちが物乞いさせられていたり、自分の家に家畜のようにつながれている実態を見 て驚愕したそうです。そんな中でセンターを開所しました。当初は、ハンデキャップ・センターの教育方針一つにしてもカースト制度のメンタリティーやイスラ ムのメンタリティーから、掃除やごみを拾うなどの作業や生活訓練さえ入所者の保護者から反対されたり、施設の行事についても理解してもらうのにも多くの時 間を割いてきました。

  そんな中で彼が学んだのは、「クリスチャンでも生活文化はイスラムですから、こうした文化とどう共存するのか、それから、施設の子供たちのためにイスラ ムの祝日を祝うとか、日常の生活など尊重することが何よりです」。そして、「カトリックの施設なのでカトリックの行事もあります。親はイスラムでも施設の 行事なのと、ハンデを克服する教育の一つなので理解をしてくれます。宗教を超えるカギになるのがハンデという共通の取り組みなのだ、と感じています」とい う、共存と尊重、そして共通のテーマに向き合うということでした。
  退所していく児童のご両親から、「ここのセンターで学ばせたよかった」「諦めずに通所させてよかった」という声は、ブラザー松本にとって苦労が報われる 瞬間であると同時に、宗教の違いを超えて心が通う瞬間でもあり、真の対話と平和をつくる力につながる、という思いを新たにするときでもあるのです。

  施設は現在夏休みで、休み明けに新学期を迎えますが、ブラザー松本にとって新学期は新たなメンバーとその家族との宗教と文化を超えた対話のスタートなのです。