安藤 勇(イエズス会社会司牧センター)

東アジアのイエズス会社会使徒職
  2009年初め、イエズス会アジア太平洋協議会(Jesuit Conference of Asia Pacific: JCAP)は、アジア太平洋地区のイエズス会社会使徒職の現状を検証する必要性を認識して、「社会使徒職のマッピング・プロジェクト(アンケート調査)」 を実施した。直前の2008年11月にスペインのマドリッドで開かれた、イエズス会の国際的な社会正義に関するワークショップに参加したJCAPメンバー は、社会分野で働くイエズス会員について、イエズス会全体を網羅したデータベースの構築を求めている。
  JCAP事務局は、信徒協力者も含めたチームと共にプロジェクトを実施した。2009年1月に開かれたJCAPの管区長会議の承認を受けて、マッピング・プロジェクトは開始された。その目的は、以下のようなものである。

  1. アジア太平洋の社会状況について、特にイエズス会員の経験から、より深い洞察を得ること。
  2.   社会分野で創造的な取り組みを行っているイエズス会の組織や個人を明らかにすること。3、イエズス会がそのような社会状況の中で、特に国際的な協力によって、さまざまな招きや課題にどう答えるべきかを識別する助けとなること。

  アジア太平洋地区の現状は、より一貫した戦略と管区や使徒職の垣根を越えた協力を求めている。立場が弱い移民の増加、急激で不平等な経済発展、社会から 疎外された人々への種々の脅威、根深い紛争、環境面での不正などが、アジア太平洋地区における緊急課題となっており、イエズス会員とその協力者は、より積 極的な関与を求められている。
  今回のプロジェクトは、イエズス会がJCAPレベルで、使徒職間の垣根を越えた共通の課題、もしくは優先課題を設定するよう求めている。おそらく移民、環境と天然資源の管理が、アジア太平洋各国における使徒職の優先的な共通課題となりうるだろう。イエズス会員と協力者はすでにJCAPの各地で、こうした課題に取り組んでいる。この二つの分野のそれぞれに具体的な目標がJCAPレベルで定められ、大学・社会・教会司牧・中等教育など、あらゆる関係部門を包括した戦略が立てられ、実 践され、検証されるだろう。

  さて、今回のマッピング・プロジェクトで明らかにされたのは、社会使徒職においてフルタイムで働くイエズス会員が少ないため、彼らがしばしば孤立無援だと 感じる現状だ。また今回の調査では、イエズス会員が貧しい人々に直接関わる機会が減っていることも明らかになった。実際、貧しい人々に寄り添い、社会正義 の問題に関わるイエズス会員が不足している現状が、繰り返し報告されている。さらに、地区には専門家の会員や機関がたくさんあるにもかかわらず、断片的な 取り組みしか行われていないように見える。異なる使徒職間、特に社会使徒職と大学使徒職との間の協力が不足している。その結果、専門知識を分かち合い、共同のプロジェクトを実施する機会が、きわめて少なくなっている。
  使徒職計画は大幅に改善されるだろう。特に、JCAPと各管区は、使徒職ごとの計画ではなく、共通課題(mission frontiers)ごとの計画に力を入れることになる。
  最後に、多くの若手イエズス会員が、先駆者が開拓した社会使徒職を引き継いでいる。だが、各地の状況は以前とは変わっている。若手のイエズス会員は勇気と柔軟性を持って、社会使徒職の進路を大胆に見直さなければならない。
  まとめて言えば、イエズス会第35総会は会員に、神との和解、隣人との和解、被造物との和解を促進するため、垣根を越えた橋を架けるよう求めている。多様な文化と宗教を抱え、経済がダイナミックに発展し、政治にも多様なアジア太平洋地区にあるJCAPは、この和解の要請に対して、大胆さと創造性を持って答えなければならない。

プロセス
  JCAP事務局は、各管区で社会使徒職関係の仕事に携わるイエズス会員と協力者を選んで、電子メールで連絡を取った。この調査の目的は、回答者の現在の仕 事の内容や働き方、ネットワークへの参加状況、今後のプラン、国際的な協力体制によってどんな利益があるかについての情報を得ることだった。JCAP各国 で働く103人-社会使徒職で働くイエズス会員と信徒、イエズス会外の社組織で社会問題に関わるイエズス会員と協力者、大学・教会司牧・中等教育などの使 徒職で働きながら社会問題に関わるイエズス会員に、調査票が送られた。
  そのうち、74人から回答が返ってきた。その後、回答者の中から17人を選んで、彼らが取り組んでいる社会のニーズや、JCAPレベルでの協力を促進する可能性について、より深く検討するためのインタビューが行われた。
  集められた情報をもとに、社会使徒職における共通の強みと課題とは何であるかについて、分析が行われた。分析結果と提言をまとめた詳しい報告書が作成されている。
  マッピング・プロジェクトが回答を求めている最も基本的な質問は、「私たちは今、どんな分野に積極的に関わっているか?」というものだ。調査によれば、アジア太平洋のイエズス会員と協力者が関わってきた社会問題は、次のようなものだ。

  1. 移民
  2. 環境と天然資源の管理
  3. 貧困と持続的発展
  4. 先住民族
  5. 青年・家族とその再建
  6. 教育へのアクセス
  7. 市民社会・社会参加と統治
  8. 宗教間対話と宗教的原理主義
  9. 平和構築と紛争の解決
  10. 自然災害への準備と救援・復興

クラテン会議とマッピング・プロジェクト 

  1. 協働:移民問題について、合同プロジェクトを実現する必要がある。具体的には、移民送出国と受入国のネットワークの構築だ。
  2. 環調整:情報技術-インターネット、ブログ、メディアなどを通した、いっそうのコミュニケーションが必要だ。フルタイムの社会使徒職コーディネーターが必要だ。
  3. 貧しい人々と共にあること:社会使徒職に携わる者は、自己評価する必要がある。各管区は会員に、ライフスタイルや清貧の誓願を生きることについて思い起こさせ、財政方針を監視する必要がある。
  4. 社会的側面の養成:神学校で社会分析と批判的考察の授業が行われる必要がある。その材料として、マッピング報告書を使うとよい。イエズス会員、特に神学生に、イエズス会の修道生活の社会的な側面について理解させる必要がある。

移民について
移民については、社会司牧通信154号の「日本で暮らす移民の現状」の記事を参照してほしい。

〔目標〕

会議の参加者は、アジア太平洋における移民の問題について考察し、JCAPのプロジェクトの目標として、以下の項目を定めることに合意した。

  1. 弱い立場の移民に寄り添い、質の高いサービスを提供することで、我々の奉仕の質を高めること。
  2. 移民に関する考察、調査、働き手の養成を推進すること。
  3. 国内・国際レベルで、移民問題の原因についてよりよく理解させ、啓蒙すること。
  4. イエズス会と教会の中で、移民の体験を広く伝えることによって、さまざまなレベルでの対応を促すこと。

対象となる移民グループ
  会議ではまた、JCAPのプロジェクトが対象とする移民グループを、以下のように定めた。

  1. 出稼ぎ労働者(国際移民・国内の出稼ぎとも)
  2. 弱い立場の外国人配偶者(「通信販売の花嫁」など)
  3. 非正規移民(人身売買の犠牲者も含む)
  4. 外国人収容所の収容者

活動領域
  参加者は、向こう3年の主要な活動領域として、以下の領域について合意した。各領域で具体的な行動計画が作成される。

  1. 出稼ぎ労働者(国際移民・国内の出稼ぎとも)
  2. 弱い立場の外国人配偶者(「通信販売の花嫁」など)
  3. 非正規移民(人身売買の犠牲者も含む)
  4. 外国人収容所の収容者

  さらに、移民プロジェクトの推進のための特別チームを編成すること、JCAPに移民デスクを新設し、フルタイムのスタッフを置くことについて合意した。ベルナルド・アルプタサミー神父が特別チームの責任者となった。

日本管区の行動計画
  各管区の参加者が、管区で今後とるべき行動計画について説明した。ここで、日本管区からの参加者が説明したプランを紹介する。

  1. マッピング報告書について

社会使徒職委員会で要約を作り、クラテン会議の成果を、他のイエズス会員、特に神学生と共有する。

  2.  移民問題

a.担当者:社会司牧センターの移民デスク(安藤)
b.CTIC(カトリック東京国際センター)や他の市民団体、小教区、学校、上智大学、足立インターナショナル・アカデミーとの協力とネットワーク
c.移民労働者の受入国のネットワーク構築3、他の重要分野  a.周辺化
b.心の悩みを抱える人々
c.日本社会における平和の構築