山口県上関(かみのせき)市田ノ浦(たのうら)に原子力発電所の建設計画が持ち上がったのは、1982年のことでした。田ノ浦と海をはさんで向かい合う祝 島(いわいしま)は、漁業と農業が主な産業で、人口減少と高齢化が進む、住民500人の小さな島です。この映画は、豊かな海を守ろうと、30年近く原発建 設反対運動を続けてきた祝島の人々と、原発に頼らず、自然エネルギーによる持続可能な社会を建設しようとしているスウェーデンの人々の、生活と運動を描い たドキュメンタリーです。
上関原発の話は、私も実はかなり前から耳にしていました。下関にある労働教育センターが、上関原発建設反対運動に取り組んでいたからです。とはいえ、原 発は今、日本政府が「地球温暖化を防止する切り札」として推進しています。きちんと勉強しないと、簡単には取り扱えないと考えていたとき、日本カトリック 正義と平和協議会から、『原子力発電は“温暖化”防止の切り札ではない!』というリーフレットが発行され、原発と温暖化について改めて学ぶことができました。
そして今回、この映画が東京で上映されると聞き、上関原発について勉強する絶好の機会だと思い、さっそく見に行ってきたのです。
結論から言って、この映画を見に行って上関原発建設に反対する気持ちが強くなりました。とはいっても、この映画は声高に原発反対を訴えてはいません。高齢化と人口減少にもめげす、祝島の自然の恵みを受けて、生き生きと暮らす住民の様子をじっくりと描いています。
そんな住民たちに対して、原発建設のために、埋め立て工事を強行しようとする中国電力の社員は、船の上からこう呼びかけます。「このまま、本当に農業とか、第一次産業だけで、この島がよくなると、本当にお考えですか?」。
何という傲慢な言い方でしょう。祝島の島民たちは長い間、豊かな海と山の恵みを受けて、自給自足で暮らしてきたというのに、「儲からない農業や漁業はやめて、原発で働いて稼ぎなさい。食べ物は原発の給料で買いなさい」と言いたいのでしょうか?
他方、スウェーデンは、原発建設に別れを告げ、再生可能な自然エネルギーを優先することを、国の方針として決めています。過疎化に悩む小さな町が風力発電や バイオマス燃料(再生可能な生物由来の有機性資源で、石油や石炭などの化石資源を除いたもの。生ゴミなどを固めた固形燃料や、家畜の糞尿など)で、ほぼ 100%のエネルギー自給を達成しています。また、国レベルでも電力供給の自由化を実現し、国民は電力を購入する際、再生可能なエネルギーを選択すること ができます。日本では電力の自由化が実現していないと聞いたあるスウェーデン人は、「なぜやらない? 今すぐ変えるなきゃダメだ」と、当然のように訴えます。彼が言うように、「問題を起こすより解決するほうが、よっぽど楽しい」のです。
映画の最後で、祝島にUターンした青年が、こう語る。「全世界を知ってるわけではないけど、生きるならここじゃろうなっちゅう感じですわ」。先祖が生ま れ育った土地で、自然の恵みを受けて暮らし続けたい。祝島の人たちにとって、上関原発に反対する理由は、ただそれだけです。日本は戦後、そんな地方の人々 を追い立て、切り捨てて、発展を遂げてきました。そして今、「温暖化を防ぐため」と称して、祝島の人たちを追い立てようとしています。
この映画のタイトルは、「ミツバチの羽音のようなささやかな動きでも、地球の回転のような大きな動きに影響を与えるかもしれない」という、物理学の考え方からとられています。私たちは「ミツバチ」になれるでしょうか?
【 社会司牧センター柴田幸範 】