安藤 勇 SJ
カンボジアには以前訪れたことがあるが、エコロジーに関するワークショップに参加するために行ったのは初めてである。コンポン・チャム(カンボジア)にア ジア各国から47名のイエズス会関係者(16名の協働者と31名のイエズス会員)が去る7月11日に集まり、日本からは小山神父(上智大学)と社会司牧セ ンターから川地と私が参加した。
ワークショップの会場は、メコン川(私たちが扱おうとしている環境問題の生きたシンボルである)を臨む場所だった。私を含むほとんどの参加者は、環境問 題の素人であり、これから何が行われるのかさだかでなかった。私としては、既に(環境問題に)取り組んでいる人々から学び、これからどのような協働の道が あるのかを探りたいと思っていた。実際、アジア太平洋イエズス会会議(JCAP)がさらなるフォローアップを期待し、カンボジアのイエズス会員と協働して このワークショップを組織・主催していた。
ワークショップが行われたのは、東日本大震災の地震、津波による大災害と放射能汚染から間もない時期であったので、私たち3人の日本代表は、核エネル ギー施設について明確なメッセージを述べた。すなわち「(原発は)安全ではなく、コストも高い。人間の技術は自然に逆らうことはできない。」福島の事件によって核をめぐる論争は新たな局面を迎えた。決断を下せるのはエネルギーに関わる役人だけだが、その衝撃は私たち全員を襲うのである。
ワークショップのタイトルは「被造物との和解」だった。まず神に感謝と、環境についてメコン川と人びとの生活から、何らかの体験をすることから始まった。しかし率直に言って、すでに圧倒的な大自然の力は全て目の前にあった。それにも関わらず、メコン川の流れを見ること―その広大さ、独特の季節の移り変 わり、その水によって生きる6000万人の人びとに想いをはせること―は学びのプロセスであった。
ワークショップ報告:2011年7月11~15日
今回初めてイエズス会関係者がアジア太平洋でエコロジーに関して集まった。ワークショップは、2011年7月11日~15日にコンポン・チャム(カンボジア)の司教館で行われ、メコン川を学びの場とした体験プログラムとして計画されていた。
そのアプローチは感謝から始まり、直ちに現在の環境問題に注目することより、メコン川と人びとの生活から、環境についての何らかの体験をすることであっ た。私たちはしばしば問題点を探すことに慣れてしまっているので、この手法は難しかった。私だちは、直ちに争点を明らかにしようとしてしまうからだ。
ある人びとは環境問題がイエズス会にとっても問題なのかと尋ねた。第35総会(GC35)に遡れば是である。私たちのミッションを定義しているからだ。第35総会へのコミットメントの中で、JCAPは2つの主要な分野(「移民」と「被造物との和解」)に焦点を合わせた。
2010年8月にクラテン(インドネシア)で行われた会議では、JCAP地域の移民の状況を扱い、一般的な環境プログラムを用意するための地歩を固め た。ペドロ・ワルポール神父Fr Pedro Walpole(イエズス会員、フィリピン)は、イエズス会の環境問題に対するアプローチを明確にするために使われる草案を環境グループと共に作成するよ う依頼された。
ワークショップは私たちにとって熟考、議論、疑問の場となり、形造られてくる戦略に磨きをかけた。
イエズス会の活動において、私たちは霊性をすべてのことの根源としなければならない。そこには
- 私たちは神が生命の創造主であることを認め、毎日静かな時間を作り出し、感謝のうちに神による創造 を讃える。私たちの生き方は、周囲が静かでなかったとしても、静寂な時間を見出せる。私たちは次の世代に多くの環境問題を残してしまうので、希望の根拠を 次の世代に与えなければならない. 多くの若者がこの世界と苦闘しているものの、彼らはこの世界に十分慣れてはいない。ある意味、若者たちは没頭することもできるが、別の意味で彼らは最も混乱させられてしまう。
- 私たちは、環境の破壊と生計の道をしだいに失いつつある貧しい人々との連帯を、希望を持って模索する。彼らは気候変動にもっとも傷つきやすい。
- 色々な面で、先住民や農村で生活を送っている人々は、彼らの言語、文化は被造物および季節の移り変わりに根ざしているので、どのようにして地方の風景と関連づけられるかを教えてくれる。
- 私たちは、より持続可能な世界に寄与するためのチャレンジを受け入れる。
メコン川は中国から生まれ、数カ国を流れ下り、ベトナムの南の海へ注ぐ。ワークショップの主題として最適である。メコン川の流域の中に、たくさんのダム が水力発電や灌漑のためにある。これらのダムは人々に疑問をもたらす。これらの施設はメコン川の洪水の水位に影響を与えるのか?川の水位がより低いことに よって水浸しの土地が少なくなり、魚資源も減少する。
ゲストの一人で、ローマのイエズス会本部にある「社会正義とエコロジー」事務局担当のパツィー・アルバレス神父Fr Patxi Alvarezは、次のことを私たちに示した。
イエズス会は被造物との調和に関心を持つ水準に達するには数年かかった。社会センター間の国際協力は重要だと思われる。弁護的支援活動 (advocacy)は協力のための共通の領域である。第35総会は、イエズス会の社会との関わり合い、すなわち、イエズス会員間およびその使徒職のネッ トワーク作りの基礎である。
「私たちは、多くの複雑な問題に直面しているが、多くの好機も与えられているので、それらを利用して富裕層と貧困層との橋渡しをするように求められてい る。政治権力者と自らのニーズを表明できない人々との間に立ち、相互支援の体制を築き上げることもできる。私たちの知的使徒職は、このような橋渡しの貴重 な助けとなり、社会問題のメカニズムや相互関連を徹底的に解明する新しい思考法を与える使命を持つ。…」
2008年のローマでのイエズス会コーディネーターの会議において、ネットワークにおける5つの主題が確認された。(1)教育を受ける権利(2)平和と人権(3)環境(4)移民(5)天然資源・鉱物資源の管理。
それらは私たちにとって、どう協力できるのかというチャレンジとなる。イエズス会員は地元において、あるいは仕事場においては非常に強力であるが、協働は得意ではない。これらのありふれた主題は共通のビジョンを持ち、共通のミッションに向けて一緒に働く基礎を与える。
しかし、社会的関心はいつもイエズス会の関心事であるとは限らない。イエズス会員の直接的な社会行動は減少している。私たちには学び、反省し、活動の拠点となるセンターが必要である。
どのようにしたら若いイエズス会員(神学生、中間期生)を、このミッションに巻き込めるだろうか。
最も重要なことは、私たちは「自分の家を整頓する」ことを承認することだ。イエズス会共同体内の意識化(advocacy)は重要な焦点となる。私たちに は姿勢、生活様式、養成や関わり方などに大きな変化が求められている。そして長上の指導も期待されている。一方、天災や人災、戦争や核エネルギーのような 制御不能な経済発展スキームは、克服しがたい現実を私たちの目の前に突きつけている。