国際人権(自由権)規約委員会 第64会期

日本政府の報告書に関する 「最終見解」 (Concluding Observations)

国連文書CCPR/C/79/Add.102 原文:英語

日本政府報告に対する解答

第4回報告書の審査と最終見解の採択

委員会は,1998年10月28日及び29日に開かれた第1714回から第1717回会合において日本政府の第4回定期報告書 (文書番号: CCPR/C/115/Add.3andCorr.1)を審査し、1998年 11月5日に開かれた第1726回及び第1727回会合において以下に述べる最終見解を採択した。

はじめに

謝辞

委員会は、委員会の挙げた問題に対する政府代表の率直で単刀直入な回答と、委員の口頭の質問に対する解説と説明について、感謝の意を表明する。 委員会はまた、政府の様々な部局を代表する大代表団が出席されたことについて、規約に基づく義務の履行についての締約国の真剣さを表すものであり、感謝する。 委員会は、締約国が今回の報告書及び当委員会の活動を広く一般に知らしめたことについて、締約国を賞賛する。 また、報告書審査の際に多数の弁護士及び非政府団体(NGO)が出席していたことも歓迎する。

この5年間に行われた法律改正等

委員会は,政府が国内法を規約の規定と適合させようとしていることを賞賛す私また、人権擁護施策推進法が制定されたこと、男女雇用機会均等法、労働基準法、出入国管理及び難民認定法,刑津,児童福祉法,公職選挙法,並びに風俗等の規制及び業務の適正化等に関する法律が改正されたこととともに、児童買春及び児童ポルノに関与した日本国民を処罰することを目的とした法案を歓迎する。

積極的な側面

両性の平等及び差別除去のための努力

委員会は男女平等社会の実現のための政策を調査発展する目的で内閣に男女共同参画推進本部が設立されたこと、及び 「男女共同参画200脾プラン」が採択されたことにつき満足を持って承知す私委員会はまた、韓国・朝鮮学校の生徒婚外子及びアイヌの子どもに対する差別と偏見を取り除くために法務省人権擁護機関によって取られた措置を承知する。

女性に対する差別の除去

委員会は国家公務員採用試験の受験資格における女性への制限 定年退職に関する差別、 及び結婚,妊娠,出産を理由とする解雇の廃絶を歓迎する。

主要な懸念事項と勧告

前回の勧告の不履行

委員会は,第3回報告書の審査後に出された勧告の大部分が履行されていないことを遺憾に思う。

人権保障と世論調査

委員会は、人権の保障と人権の基準は世論調査によって決定されるものではないということを強調す乱規約上の義務に違反している可能性のある締約国の態度を正当化するために、世論調査結果をくり返し使用することには懸念を有する。

公共の福祉概念による権利の制限

委員会は「公共の福祉」に基づき規約で保障されている権利に課される制限に対する懸念を再度表明する。この概念は、曖昧無限定で規約のもとで許される範囲を超える制限を許容し得る。 前回の見解に引き続いて、委員会は、再度、締約国に対し、国内法を規約に適合させることを強く勧告する。

国内人権救済機関の設置

委員会は、人権侵害を調査し、申立てに対し救済を与えるために利用可能な制度的な仕組みの欠如について懸念を有する。 当局がその権限を濫用しないこと及び当局が実務において個人の人権を尊重することを確保するために、実効性のある制度的な仕組みが必要である。 委員会は、日本の現行の人権擁護委員は、法務省の監督下にあり、また、その権限は勧告を発することに厳しく限定されていること、そのような仕組みにはあたらないと考える。 委員会は、締約国に対して、人権侵害の申立てを調査するための独立の機関の設置を強く勧告する。

警察や入管での虐待を救済する機関の設置

さらにとりわけ、委員会は、警察や入国管理局職員による虐待に対する申立てを調査や救済のために行うことのできる独立の機関が存在しないことに懸念を有する。 委員会は、このような独立の組織や権限を持った機関が締約国によって遅滞なく設置されることを勧告する。

合理的な差別と規約26条

委員会は、客観的な基準がなく,規約26条に適合しない 「合理的な差別」の概念の曖昧さに懸念を有する。 委員会の認識するところ、この概念を擁護するために締約国からなされた議論は,第3回政府報告書の審査の際に主張され、委員会が受け入れられないと判断したものと同一の議論であった。

婚外子差別

委員会は引き続き婚外子に対する湖について、とりわけ、国籍、戸籍と相続権の問題に関して懸念を有する。 委員会は、規約26条により,すべての子供は平等な保護を受ける権利があるという立場を再確認し、締約国に対し、民法900条4号を含む法制度を改正するための必要な措置を取ることを勧告する。

在日コリアンに対する差別

委員会は、日本国民でない在日コリアンの少数者の人達に対する韓国・朝鮮学校が承認されないことを含む差別の事例について懸念を有する。 委員会は締約国に対し規約27条の下での保護は市民権を有する者に限定されないという点を強調する一般的意見23(1994)について注意を喚起する。

アイヌに対する差別

委員会はアイヌ先住民族少数者の人々について、言語及び高等教育における差別、並びに先住地に関する権利が認められていないことに懸念を表明する。

部落の人に対する差別

同和問題に関しては、委員会は、部落少数者の人々に対する教育, 収入そして効果的救済のシステムに関して差別が続いている事実を締約国が認めていることについては認識している。 委員会は締約国に対してこのような差別を終わらせるための措置を取るよう勧告する。

女性に対する制定法上の差別

委員会は、今もなお国内法秩序の中に、婚姻の解消もしくは無効の日の後6ヶ月間にわたって女性に対して再婚が禁止されていること、及び婚姻年齢が男性と女性が異なっていることなど、女性に対する差別的な法規が残っていることに懸念を有する。 委員会は、女性を差別するすべての法規定は規約2条、3条及び26条に適合せず廃止されるべきことを想起する。

外国人登録証の常時携帯義務

委員会は,政府の第3回報告書の審査の最後に示された,外国人登録証明書を常時携帯していない永住外国人を刑罰の対象とし,刑事制裁を科している外国人登録法は規約26条に適合しないという意見を再度表明する。
委員会は、このような差別的な法律を廃止するよう再度勧告する。

定住外国人と再入国許可

出入国管理および難民認定法26条は、再入国の許可を受けて出国した外国人だけが在留資格を失うことなく帰国することができること、および、このような許可を与えるかどうかは法務大臣の完全な裁量権のもとに置かれていることを規定している。 この法律のもとでは、日本における第二世代,第三世代であり、その生活活動が日本を基盤としている外国人であっても、国を離れ、帰国する権利を奪われる可能性がある。 委員会は、締約国に対し、 「自国」という言葉は「国籍国」と同義ではないということを想起するように求める。 そして、委員会は締約国に対して、日本で生まれた韓国・朝鮮人のような永住者については再入国の許可を取得する必要性を廃止することを強く要請する。

入管収容施設での暴行および長期収容等

委員会は入国管理に係る手続中に(訳者注:退去強制手続や上陸許可手続収容されている人達への暴行や性的嫌がらせの訴えについて懸念している。 この中には、苛酷な収容状況、手錠の使用、隔離室への収容といったことも含まれている。 入国管理施設に収容された人は、6ヶ月まで、いくつかの事例によっては2年間までも延長された期間収容所にとどめられる場合がある。 委員会は、締約国が収容の状況を見直し、また必要ならば、状況を規約7条および9条に適合するよう改善を行うことを勧告する。

死刑適用犯罪の減少

委員会は、日本の第3回報告書審査の際に政府代表団が説明されたようには、死刑適用犯罪の数が減っていないことに重大な懸念を有する。 委員会は、規約の文言は、死刑の廃止を指向しており、死刑を未だ廃止していない締約国は、最も深刻な犯罪にだけ適用しなければならないと規定していることを再度想起する。 委員会は、日本が死刑の廃止をめざした措置をとり、その間は,規約6条2項に従って、死刑の適用はもっとも深刻な犯罪に限定されるべきであることを勧告する。

死刑囚の処遇等

委員会は、死刑確定者の拘禁状態に深刻な懸念を有し続けている。 特に委員会は訪問や通信の過度の制限死刑確定者の家族や弁護人への執行の事前告知がなされていないことは規約に違反すると理解している。委員会は、死刑確定者の拘禁状態を規約7条,10条1項に沿って人道的に改善することを勧告する。

起訴前勾留

委員会は,規約9,10および14条で定められている権利が起訴前の勾留においては次のような点で保障されていないことを深く懸念を有する。この勾留は警察のコントロール下で最大23日間可能であり、被疑者は速やかでかつ効果的な司法コントロールのもとに置かれないが、この23日間の勾留期間中は保釈が認められておらず、取調べの時間および期間に関する規則が存在せず、勾留中の被疑者に助言し援助する国選弁護 人が存在せず、刑事訴訟法39条3項のもとでは弁護人へのアクセスが厳しく制限され、取調べは被疑者の選任した弁護人立会いのもとで行われない。委員会は規約9,10および14条に適合するように、日本の起訴前勾留制度を直ちに改革するよう強く勧告する。

代用監獄

委員会は、取調べをしない警察の部署によるとはいえ、「代用監獄」が分離した権限の監視下にないことに懸念を有する。このことは、規約9条および14条に定められている被拘禁者の権利が侵害される可能性を大きくしかねない。委員会は、第3回政府報告書の審査時の勧告を再度表明し、「代用監獄」制度を規約の要請をすべて満たすものにするよう勧告する。

人身保護制度

委員会は、人身保護法に基づく人身保護規則4条により、人身保護令状発布の要件が、(1)法的権限なく拘禁され、かつ(2)適正手続の明白な違反がある場合に限定されていることにっいて懸念を有する。同法は,すべての救済手段が尽くされたことをも要件としている。委員会は、同搬」4条は、拘禁の法的正当性を争う手段の有効性を損なうものであり、したがって規約9条と両立しないと考える。委員会は、日本に対し、同規則4条をを廃止して人身保護手続を制限や規約のない完全に実行的なものとするよう勧告する。

自白を取得する取調べの監視および電気的言畷

委員会は,刑事裁判における多数の有罪判決が自白に基づいてなされているという事実に深い懸念を有する。圧迫により自白が引き出される可能性を排除するため、委員会は、警察の留置場すなわち代用監獄における被疑者の取調べが厳格に監視され、また電気的な方法(訳者注:テープレコーダーやビデオレコーダー)により記録されることを強く勧告する。

証拠開示

委員会は、刑事法において、検察官には、その捜査の過程等において収集した証拠につき、公判に提出する予定がない限りこれを開示する義務がないこと、及び弁護側には手続のいかなる段階においてもそのような証拠資料の開示を求める一般的な権利は認められていないことに懸念を有する。委員会は、規約14条3項の燥障に従い、弁護を受ける権利が阻害されないよう、締約国が、弁護側が関連するあらゆる証拠資料にアクセスすることができるよう、その法律と実務を確保することを勧告する。

刑務所における処遇

委員会は、規約2条3項(a)、7条、および10条の適用について深刻な問題が生じている日本の刑務所制度の諸側面に関し、深い懸念を抱いている。特に、委員会は以下の事項について懸念を有している。

  1. 受刑者が自由に話をしたり、周囲と親交を持つ'権利'、プライバシーの権利等を含む基本的な権を制限する過酷な所内規則
  2. 厳正独居の頻繁な使用を含む過酷な懲罰手段の使用
  3. 規則違反を犯したとされる受刑者に対する懲罰を決定するについて、公正で開かれた手続の欠如
  4. 刑務官による報復行為に対し、申立てを行った受刑者に対する保護が不十分であること
  5. 受刑者による申立てについて調査するための信頼できるシステムの欠如
  6. 残酷で非人間的な取扱いと考えられる革手錠のような保護手段の多用
中労委での審理拒否

委員会は、中央労働委員会が,労働者が労働組合への加盟を示す腕章を付けている場合には、不当労働行為の申立ての審理を拒否することについて懸念を有す孔このような行為は規約19条および22条に違反する。この委員会の見解は、中央労働委員会の注意を喚起させるべきものである。

女性の人身売買、子どもの買春・ポルノ

風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律が改正されたとはいえ、いまだ女性の人身売買が行われ,また人身売買や隷属状態に晒されている女性に対する保護が不十分であることは規約8条に照らすと重大な懸念事項である。締約国によって与えられた児童買春及び児童ポルノに多する新法案に関する情報に照らすと、委員会は、この措置が性行為の同意に関する下限年齢が13歳と低いことにかんがみるとき、18歳未満の子どもを保護できないのではないかと懸念する。委員会はまた、子どもの誘拐及び性的侵害に刑事罰が科されるとはいけ、外国の子供を売春目的で日本に連れてくることを金する特定の法律事項が存在しないことにも懸念を有する。委員会は、こういった現状を、規約9条、17条、および24条に基づく締約国の義務に適合させるよう勧告する。

女性に対する家庭内暴力

委員会は、女性に対する暴力とりわけ家庭内における暴力と強姦が頻発していること、及びこのような行為を撲滅するための救済措置が存在しないことについて引き続き重大な懸念を有する。 委員会は、日本の裁判所が性関係の供用を含む家庭内暴力を結婚生活における通常の出来事だと考えているように思われることについて心配する。

優生保護法による強制不妊手術が行われた人に対する補償

委員会は、障害を有する女性に対する強制的な不妊手術措置が廃止されたことは認識しつつも、このようにして強制的な不妊手術がなされた人が補償を受ける権利を規定した法律がないことを遺憾に思う。必要な法的手段がが講じられるよう勧告する。

裁判官、検察官、行政官に対する国際人権法教育

委員会は、規約で保障された人権について、裁判官、検察官、及び行政官に対する研修が何ら提供されていないことに懸念を有する。委員会は、このような研修を受講できるようにすることを強く勧告する。裁判官を規約の規定に習熟させるため、裁判官協議会及びセミナーが開催されるべきである。委員会の「一般的意見」及び第一選択議定書による個人通報に対して委員会が表明した「見解」が、裁判官に配布されるべきである。

最終見解の実施、第一議定書の批准

委員会は、この最終見解に基づいて行動を起こし、また、この最終見解を第5回報告書を作成する際に考慮することを政府に対して求める。また、締約国に対し、法律が規約と完全に適合するよう国内法を再検討しまた適切な改正を行い続けることを勧告する。委員会は、締約国が、人権侵害の被害者に対して救済手段を与えるための措置を講じること、とりわ、え、第一選択議定書を批准することを勧告する。

NGOとの対話

委員会1さ、締約国がこの最終見解を履行する際に、非政府団体(NGO)を含む国内の関心を有するすべての団体と対話することを期待する。委員会は、締約国に対し、その報告書とこの最終見解の広範な配布がなされるよう求める。

(第5回報告書の提出日)

委員会は、日本の第5回報告書の提出日を、2002年10月と定める。



※ 日本弁護士連合会国際人権問題委員会釈「自由と正義」1999年2月号,(pp.1-5)

※各項の表題は、訳者にて付したもので、原文にはありません。